このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
天地自然を崇拝して生活を営んできた日本人後藤俊彦(高千穂神社宮司)
1.「年立ちてまづ汲みあぐる若水(わかみず)の すめる心を人は持たなむ」この和歌は年の始めを尊ばれた大正天皇の御製(ぎょせい)である。昇る太陽も汲む水も常に変わらないが、私共はそれを新年には初日と呼び、若水と称える。年が改まれば天地自然もまた神聖な命が蘇(よみがえ)ると信じているからである。
2.「冬来たりなば春遠からじ」というが、1 月から3 月にかけて時は瞬(またた)く間に過ぎてゆく。日本人が季節の移ろいを感じとる感性が鋭いのは、変化に恵まれた四季の風土に生き、人と自然の間に一線を画すことなく一つの生命体として捉えてきたからだろう。
3.キリスト教にもイースター(復活祭)などの四句(しじゅん)節(せつ)があり、自然を愛し尊ぶ心は世界の人々に共通しているが、それを五節句や年中行事として生活文化にまで昇華(しょうか)させてきたところにわが国の国風(くにぶり)のようなものを感じる。例えば、三月は桃の節句である。古来桃には邪気を祓(はら)うとの信仰があった。五月には梅雨の季節で田植え月である。一方で神社神道は、春は神に対して五穀豊穣を祈り、秋には実りへの感謝の祭りを行ってきた。そうして少しずつ人が群れ、ムラ(村)となり、クニ(国)となって統一国家が誕生した。
(参考:「致知」2023 年4 月号)