このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
経営の信念が問われる時代の到来 延岡健太郎(大阪大学大学院経済学研究科教授)
1.企業は株主価値や収益ではなく、社会的責任を優先すべきだとする論調が近年強まっている。この傾向がコロナ禍の前に始まっていたのは、社会にとってわずかな幸運といえるだろう。2019年には米大企業のCEO(最高経営責任者)200人近くで構成されるビジネスラウンドテーブルが、利益最優先の経営目標を取り下げた。企業は株主利益ではなく「すべての利害関係者(顧客、従業員、取引先、地域社会、株主)」に貢献すると宣言したのだ。
2.米MIT(マサチューセッツ工科大学)のレベッカ・ヘンダーソン教授が最近出版した「資本主義の再構築」では、環境と人に優しい経営を重視すべきだとし、「企業業績だけを目標とするよりも社会問題との両立を実現する経営のほうが格段に複雑であり、そのために企業は社会的な視野から経営目的と存在意義を明確に持たなくてはならない」と言う。
3.自らの信念を前面に出す経営を筆者(延岡健太郎)はアート思考と定義し、最近「アート思考のものづく」を出版した。近年はやったデザイン思考は顧客満足を、アート思考は哲学の表現を目指す。顧客ニーズへの対応や経営効率を追求するだけでなく、社会的視野から自らの哲学を明確に持ち、それを基盤にぶれない経営をすることだ。コロナ禍では、経営者と従業員、協力企業、顧客の間に強い信頼関係を築き、相互に助け合う高度な「社会関係資本」が求められる。
(参考:「週刊東洋経済」2021年2月27日号)