このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
人間くさい知略を働かせる 野中郁二郎(一橋大学名誉教授)
1.経営学や経済学はこれまで、わかりやすい正解を求めることにとらわれすぎた。人の営みであるはずの経営や経済に、人間が不在だったのだ。だからこそいま、科学的アプローチへの依存を脱し、人間的側面から問い直す必要があるのではないか。
2.人間は、他者との関係性において、主体的に未来志向で意味や価値を生み出す存在だ。人がそれぞれの「思い」を出発点に、環境変化の中で現実の文脈に身を置き、他者、モノ、環境すべてとの相互作用を通じて「より善い」を求め続けることでしか、組織の価値を創造することはできない。
3.21世紀は「知」の時代だ。日本を、安全保障も含めた総合的な知略国家にする必要がある。国家に大切なのは知力、つまり、国民の「思い」の集合知だ。単なる経営手法の枠組みを超え、日本をどうしたいかという知略が企業経営者にも必要なのではないか。数字への過度な偏重から脱し、人の知恵と思いを結集する「人間くさい知略」を働かせ、知徳国家としての自負を持つことが求められる。
(参考:「日経ビジネス」2021年3月29日号)