このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
円の独歩安招いた経常赤字、円は今後一段と下落する 唐鎌大輔(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
1.対ドルで急速に円安が進むが、実質実行相場(物価の影響を除く複数の通貨間での実力)でみても、1972年以来50年ぶりの円安水準である。その背景には、①欧米と比べても低い日本の成長率、②日本だけゼロ金利継続、③為替の需給構造の変化がある。最も根深い要因は需給構造の変化だ。
2.円が国際的な安全資産とされてきた最大の要因は、日本が恒常的に多額の「経常黒字」を稼ぎ、「世界最大の対外純資産国」の地位を保持してきたことにある。しかし、経常黒字と対外純資産という、為替を語るうえで重要な2点に明らかな変調が生じている。足元で資源価格の高騰(こうとう)により輸入金額が膨らみ、所得収支で稼ぐ以上に貿易収支の赤字が大きくなっている。これは「債権取り崩し国」の姿である。経常赤字が続けば対外純資産の累増も止まりかねない。
3.足元で円安が進むもう一つの理由は金利差であり、それを決める金融政策の差である。欧米経済はコロナ禍を脱し、需要も回復している。とくに米国では利上げを急いでいる。片や、日本は今年に入ってもコロナ対策として「まん延防止等重点措置」などが繰り返され、コロナ前の成長率を回復できていない。今後「資産を円で保有していること自体が損であり、リスクである」という認識が支配的になったとき、家計部門の円売り主導で円相場は一段と下落するだろう。これが真の円安リスクだ。
(参考:「週刊東洋経済」2022年5月14日号)