このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
リーダーは意見・立場の異なる相手と真正面から向き合おう 大橋 洋治(ANAホールディングス相談役)
1.塩野七生著「ローマ人の物語」には、カエサルをはじめ、カミルスにスキピオ、スッラなど様々なタイプの英雄が登場する。私はこの物語をトップのあるべき姿を考える組織論の指南書としても大いに参考にしたものだ。特に印象深かったのがリーダーの採点基準。塩野は「知力」「説得力」「肉体上の耐久力」「自己制御力」「持続する意思」という 5 つの尺度でその資質を評価した。これは現代組織のトップを評価する上でも通用 する。
2.中でも私が特に重要だと考えている尺度の一つが「説得力」である。企業のトップにおける説得力というと、真っ先に思い当たるのが社内への説明責任だろう。もちろんそれは不可欠だ。ただ会社という同じ組織で共通の利害や価値観、文化を共有している者に説くことは誰にでもできる。それではトップたり得ない。カエサルは敵や意見・立場を異にする者たちをも説得した。これが真のリーダーの仕事だろう。
3.それは本当に骨が折れ、不毛だと感じることも多い。ただそのプロセスの中でいかに合意点を導き出すかがリーダーの腕の見せどころだ。企業も国家も、リーダーたるものはただ「会話」を交わしただけで「対話」をしたつもりになってはいけない。意見が合わない人たちを相手にした時こそ、絶大な説得力を発揮しなくてはならない。少なくともそうした場面から逃げず、真正面から向き合おうとする姿勢が必要だ。
(参考:「日経ビジネス」2022 年 10 月 10 日号)