このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
日本にはマキァヴェリ的君主が必要 冨山 和彦(経営共創基盤グループ代表)
1.マキァヴェリの「君子論」を初めて読んだのは、約30 年前に米スタンフォード大学のMBAコースに留学していたとき。その思想に通底するのは、リーダーに善意があるからといって国が繁栄するとは限らないということ。だが、善良なリーダーになるよりも、まず自らの権力をいかに機能させるかを考えよとマキァヴェリは言う。目的も手段も正しいことが理想だが、それが不可能なとき、手段の正しさは目的の正しさに劣後する。経営者でいえば、日立製作所で再建を担った川村隆氏がいい例で、「日立再生」という目的のために事業をどんどん切った。
2.それは新型コロナ関連の政府の企業支援策から見て取れる。すべての企業を救済しようと巨額の財政出動でばらまきをした。打撃を受けた企業の経営者は一息つけたかもしれないが、その結果として金利を上げられず、円の価値はどんどん下がっている。企業を潰さないことを政策の大義名分にすれば、産業の新陳代謝が起きずDXもGX(脱炭素化)も進まない。長い目で見れば全員が地獄へ向かう。
3.もっとも手段を選らばないからといって、つねに強権的に振る舞えばいいとは限らない。人事権の発動といったハードパワーは「ここぞ」というときに絞って行使すべきだ。濫用すれば嫌われてしまい、脅したりお金を渡したりしないと人は従わなくなる。力の維持や使い方には細心の注意を払う必要がある。
(参考:「週刊東洋経済」2022 年12 月10 日号)