このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
人類が経験した産業革命の原点を考える 矢野 誠(京都大学経済研究所特任教授)
1.18 世紀以来、人類は少なくとも3 回の産業革命を経験している。一般的に、産業革命は画期的な技術を開発した個人や企業との関連で語られる。第1次産業革命では1776 年のジェームズ・ワットによる蒸気機関、第2 次は1855 年のヘンリー・ベッセマーによる鋼鉄製造転炉や、ヘンリー・フォードによる1913 年のオートメーション、そして第3 次で1981 年の米IBMによるパーソナルコンピューターと、それぞれの産業革命をけん引した技術が思い出される。
2.産業革命が起きる条件は4 つある。第1 は、市場への自由参入への保証だ。参入障壁があれば、発明家(研究開発センター)には、障壁を乗り越えるための費用が発生する。それでは技術革新は抑制されてしまう。第2 は、セクター内での自由な財・サービスの移動の保証だ。財・サービスの動きが妨げられれば、購買意欲も労働意欲も圧縮される。
3.第3 は、技術開発ニーズ(希少性)に先導される経済の構築だ。「必要は発明の母」と言う。それが発明家個人にとどまらず、経済全体で実現されなくてはならない。第4 は、人間一人ひとりの質的向上(生産性の向上)である。技術の希少性を高める大要因は、人口の増加と一人ひとりの生産性の高まりだ。つまり、一人ひとりの能力も質的に向上しなくてはならない。
(参考:日経ビジネス」2023 年5 月22 日号)