耳より情報2023年12月 No.511

このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。

保科正之「無いことを見せる」 瀧澤 中(作家・政治史研究家)  

1.史上最高のナンバー2 は?と聞かれれば、私は間髪入れず「保科正之」と答える。徳川三代将軍・家光の、母親違いの弟。三代家光、四代家綱(いえつな)時代に見事な政策や助言の数々で、幕閣はもちろん庶民からも慕われた。明暦3(1657)年、江戸市中を焼き尽くした明暦の大火は、一説には死者10 万人の惨事に。江戸城も天守も含めほとんどが焼き落ちた。 

2.幕府内で江戸城天守再建の話が出た。だが、四代将軍・家綱の後見人であった保科正之は猛然と反対。再建は見送られ、以後江戸城は天守無しの城となった。保科正之の意図は何か。市中の復興が済まないうちに江戸城天守が再建されたら、それを見た民がどんな目で幕府を見るのか。世界初ともいわれる老齢年金を会津藩で創設するほど民を思う正之ならば、民の立場から幕府がどう見られるか想像したはずである。 

3.正之は天守の無い江戸城を見せることによって、民の信頼をつなぎ止めた。「ああ、幕府は私たちのことを後回しにはしないんだ」という安心感を民に与えたのである。企業でも行政でも、何事かを成そうと必死である。それは大変結構なことだが、何かを後回しにする、何かを建てないことで、社員や地域住民たちの信頼を得ることもある。

(参考:「週刊ダイヤモンド」2023 年9 月30 日号) 

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