1.今春の動きを見ていると、賃上げの動きに各社の「個性」が出るようになった。業界で統一の要求水準を掲げ、各社の一斉回答を引き出した時代は過去のもの。人的資本経営の戦略も企業ごとに異なる中で社員の頑張りにどう報いていくのかもいろいろな形があるということだろう。一度大きな賃上げに踏み切った企業が翌年以降も賃上げできるかという観点も重要だ。
2.労働者にとっては、同業他社と自社を比べて「隣の芝生は青く」見えてしまうこともある。ただ一過性の賃上げ規模ではなく、利益のうち何%を賃金に回しているのかという「労働分配率」などにも目を向ける必要があるのではないか。足元で賃上げが目立たなくとも、昔から定期昇給やボーナスなど、手厚い報酬で社員に報いてきた企業もあるはずだ。
3.一過性の賃上げ規模だけでなく、原資をどれだけ賃上げに回したか、賃上げの持続性はあるのかなど、「人への投資」を複眼的に見ていく必要がある。経営者がこうした意識を持って社員とコミュニケーションすれば「隣の芝生」に社員の目が移ってしまうことも減るだろう。インターネットやSNS が普及し、何かと他人と比べることが多くなった現代に、企業は社員への満足感をどのように提供するのか。社員への満足を与えられる経営が求められている。
(参考:「日経ビジネス」2024 年4 月22 日号)