このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
世界に役に立つものをつくり、見返りはきちんと日本へ 吉野彰(旭化成名誉フェロー、令和元年ノーベル化学賞受賞)
1.私は日本の産業構造が変わったと申しましたけで、すべての産業が衰退したかというと、そうではないのです。川下の産業、例えばスマホは日本ではほとんどつくっていません。でもその元になる材料や原料、それこそ半導体のような基幹部品といった川上の産業では、いまでも日本が優位を握っています。事実、スマホの中に入っている部品の相当数が日本製です。そういう伝統的な強みがあります。
2.Google はスマホの基幹システとしてAndroid を開発し、他社に無償提供することで、世界の約75%の端末に搭載され、手中に収めました。Google は最近スマホ端末もつくっていますけど、あれだけ強い企業になったのは川上にそういう強い技術を持ち、うまく他社に提供して、川下とつなぎ合わせたからです。だから、川上を押さえて結果的に大きな見返りを得る、という発想が大事です。
3.日本の科学技術産業が、これから栄えていくための一つの道は、まずいまの川上の産業で健全な力を蓄えながら、次にプラスアルファ、新しい産業の芽を探していくことです。日本が科学技術で立国を果たすには、第一には個人の立志が不可欠です。ただしその立志は、グローバルでないといけない。志をどこに向けるかと言えば、世界です。世界に役に立つものをつくることを願い、その見返りはきちんと日本に返ってくるようにする。それが現代流の立志立国ではないでしょうか。
(参考:「致知」2024 年2 月号)