「古い経験」は技術革新時代でも宝の山だ    柳川 範之(東京大学大学院教授) 

1.現代が技術革新の時代であることは多くの人が認めるところだろう。しかし、新しい技術「だけを」重要視することの危険性も見えてくる。例えば、シニアの人たちがプログラミングを一から学んでも、その分野を以前から学んでいる若い世代と比べて、競争力のあるパフォーマンスを示すことは難しいだろう。それよりも、現実的であり生産的なのは、今までの経験をどう新しい技術環境の下で生かすかを考えることだ。 

2.つまり経験をどうデジタル環境に生かすかは、個人にとってだけではなく企業にとっても大事なのだ。この点は企業レベルだけでなく、日本経済全体にとっても大きなポイントである。また、単にアナログ的な経験をどうデジタル化に生かしていくかだけでなく、古い技術環境で蓄積された知見を、どう新しい環境で生かしていくか、武器にしていくかも大きなポイントであろう。 

3.古い時代の経験はどうしても新しい時代や新しい技術環境では意味のないものと考えられがちだ。だが、馬具製作の経験がかばんを作るのに生かされたり、写真ファイルの経験が化粧品の開発に生かされたりと、それまでの経験や知見が新しい環境で生かされた例は少なくない。重要なのは新しい環境に合わせてその経験や知見をどう変容させるかの工夫だ。 

(参考:「週刊東洋経済」2024 年9 月14 日号) 

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