
1,日本の長期雇用を支えてきたメインバンク制が1990年末の銀行危機により崩壊した後も、日本の大企業経営者は長期雇用制を維持しようとした。メインバンクの支えがなくても倒産しないためには自己資本を厚くする必要がある。その原資となる利益を生むために、正社員のベースアップを抑え、一方では非正規雇用に頼るようになった。
2, 非正規雇用の増加は、相当に大きな爪痕を日本の経済社会に残してしまった。非正規は賃金が低いだけでなく十分なセーフティーネットを持たず、次の不況がやってくれば雇用の調整弁として使われるため、将来に備えて予備的に貯蓄せざるを得ない。非正規に頼ることで企業はショックに対して頑健になったが、リスクが非正規に集中して消費停滞につながった。
3, こうした問題は個々の企業行動だけの問題ではなく、制度設計、そして社会全体の認識を改める必要がある。一つは非正規も含めた「被雇用者皆保険」を実現し、将来不安を抱えずに働けるようにする。ガバナンスを見直す上で、企業は株式を上場させる意義を問い直すべきだろう。
(参考:「日経ビジネス」2025 年9 月22 日号)