このコーナーは、代表理事・牧原が読んだ本や拝聴した講演会などから、印象に残ったものをピックアップしてお届けします。古今東西の耳より情報をどうぞ受け取ってください。
芭蕉の句が伝える永遠のいま境野勝悟(東洋思想家)
1.松尾芭蕉と出会ったのは学生時代、国文科で卒業論文を書くのに芭蕉を選んだ時でした。いつまでも芭蕉を勉強するつもりはなかったのですが、2年ほど後に、禅を西洋に紹介したことで知られる鈴木大拙(だいせつ)先生の本を読んでいたところ、そこに有名な「古池や蛙(かわず)飛びこむ水のをと」の句について解説がありました。この句は自然界の静寂を詠んだものだと学校で教わってきました。 2.だけど、鈴木先生の解説を読んで驚きました。芭蕉が禅の師匠である仏(ぶっ)頂(ちょう)和尚から「人生とは何か」と問われた時に「古池や蛙飛びこむ水のをと」と答え、和尚は「よし」と言ったというんです。
3.なぜ「よし」と言ったのかというと、私たちは貴重な人生を生きて、いろいろな活動をしたり、楽しんだりするけれども、永遠の時間から見ると、ポチャンという間にすぎないんだと。私はその句に込められた意味を知って胸打たけ、芭蕉の偉大さを思い知りました。それまでも私は先輩のご指導によって坐禅を組んでいましたが、この時、禅という視点で芭蕉の世界、哲学性をもって深く勉強してみたいという思いに駆られました。
(参考:「致知」2022 年 8 月号)