
1.地元(高松)の高校を出た後、東京の美大に進学しました。卒業する頃、母が仏教哲学者・鈴木大拙の著書『禅と日本文化』を送ってくれました。それを読むと、東京の美術展で流行(はや)っていることとはまるで違うことが書いてあるのです。これは西洋の模作をしたり、流行を追いかけたりしていてはだめだ、10 年もすれば行き詰まって、一歩も前に出られなくなると思いました。
2.お世話になった先生方には、「なぜ帰るのか」と言われましたけれども、中央から離れたこの高松の地で、大拙から学んだことを心身共に深めていけば、自分なりの作風が決まってくるはずだと、決意は揺るぎませんでした。結果的にこの選択がよかったのです。
3.大拙が教えているのは、そうしたものに囚(とら)われず、「無心になれ」ということだと思います。無心になれば東京がどうだ、地方がどうだ、他人の評価がどうだということは関係がない、東洋も西洋の区別もありません。どれだけ無心になれるかが自分の勝負、なれないなら誰でもない自分の責任だという思いで、創作に向き合っていきました。
(参考:「致知」2026 年6 月号)